在宅介護しながらウィーンへ行くブログ～猫とビターチョコレート～

母は昔、忙しい人だった。
寝るヒマもないほどいろんな仕事をし、寸暇をおしんでバイオリンを弾いていた。
ところが今は、何もない。
できることがない。
家事どころか携帯メールもＰＣも本を読むことすらできなくなってしまったから。
近頃は尋ねてくる友人もだんだん減ってきた。
天気のいい日は一緒に買いものにいくが、ともすると一日中テレビの前でぼんやりしていることになる。
せつなくなるほど暇である。
　「こんなに怠けてたらボケてしまうねえ」
いやもう、これ以上ボケられたら困りますわ！
目を使わず片手だけでできることって何かありませんか？
アイデア募集中です！

今日は映画に行ってみた。
テレビはあんまり見えないけれど、映画はスクリーンが大きいから良いらしい。
楽しんでみていたと思う。
けれど母にはストーリーが理解できなかったらしい。
途中で飽きてしまった。
そして怪しく動めきだした。
静かに。
静かに。
ティッシュを箱からとりだしている。
一枚。
また一枚。
鼻をかむわけでもない。
ヨダレを拭くわけでもない。
ただただ静かに。
箱からティッシュを一枚一枚とりだしては積み重ねてゆく。
一枚。
また一枚・・・。
暗闇でティッシュペーパーをとりだしつづける車椅子の老女。
かなり不気味である。
　「なにやってるの？」
耳元でささやくと、母もささやき返した。
　「あのね。この中から、お菓子が出てこないかと思って」
おーかーしー？
ティッシュの箱からお菓子は出てきません！
　「なんで？」
なんでって！
・・・なんで？
とりあえず後にしようねといってティッシュの箱をとりあげた。
ガラガラの客席だから邪魔にはならなかったと思うけど。
どうやら母はポップコーンが食べたかったらしい。
観る前は「いらない」といったけど、やっぱり食べたくなって、どういうわけかティッシュの箱に入ってるような気がしてきたらしい。
映画より母がおもしろかった。