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在宅介護しながらウィーンへ行くブログ~猫とビターチョコレート~

独身のアラフォーが家族を在宅介護、やりくりしながらウィーン旅行を目指します
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希望のゴールドブレンド

母は、よくしゃべるようになった。
お粥やゼリーを自分で食べられるようになった。
短時間なら車いすに座っていられるようになった。
 「すごい進歩だね!」
みんなそういう。
見舞いにきてくださった人はもちろん、お医者さんも看護師さんまでも。
一か月前に入院したときはほとんど声すら出なかったのだから当然だろう。
 「よかったねえ!」
ていってくれる。
でも。
私たち家族は、よかったよかったって、そう気軽には言えない。
たしかに命は助かった。
ごはんも食べられるようになってきた。
そして介護は一生つづくのだ。

母はものすごくハッキリとしゃべるようになったけれど、頭の中はワヤワヤだ。
2分前のことも覚えていない。
いもしない子どもに呼びかけたりする。
数や文字の読み書きもあやしい。
目もあんまり見えていないときがある。
自分の状態を理解できていない。
トイレで排泄することが今の目標だ。

母は65歳。
この病院の次にはどこへ行くべきかと考えたとき、こんなふうにいわれた。
 「老人ホームも使えます」
その言葉は、ボーリングの玉くらいの重量感で腹にこたえた。
父は大砲で撃たれたような顔をしていた。
もう、65才。
まだ、65才。
第2の人生これからだ。
できたら家で看たいと思う。
家族そろってご飯を食べたいと思う。
ちょうど、私の旅の壮行会だといってごちそうを囲んだ夜みたいに。

「夢はかなう」とか。
「努力すればきっと報われる」とか。
今そんな軽い言葉をいってくる人がいたらぶっとばしちゃうと思う。
ずっと意識のなかった人が歩けるようになった、みたいな話は無数に聞いた。
今の私にはそれすらも腹立たしいほど軽い話に感じられる。
そんなのは見知らぬよその人の話であり、症状は人それぞれであり、母が同じようによくなるとは限らないのだから。
現実は甘くない。
いつだって残酷なものだ。
それをちゃんと見なくちゃいけない。
受け止めなくちゃいけない。
夢をみている場合じゃないんだ。
いちばんつらいのは母自身なのだから。
 「わたしもうバイオリン弾けないかもしれない」
といったときの母の顔が頭から離れない。

ただ、希望は失わない。
去年知り合ったおばあちゃんがいってた。
 「絶対、絶対、希望だけは捨てたらアカンのや」(『明けない夜はない』
希望はすべての闇をてらす光。
今日得た光は、母が、1日1杯だけコーヒーを飲むことを許されたことだ。
ドクターにずっとお願いしていたのが、とうとう許可された。
 「今日のビッグニュースだね!」
と母は喜んだ。
明日は買いだめしておいたネスカフェのゴールドブレンドを持っていくんだ!

(『地球の迷子』更新しています)
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初めましての方へ

母:高次脳機能障害、要介護5
妹:重度重複障害者
父:天然ボケ
猫:2匹
こんな家での暮らしを綴っています。
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